月みればちぢにものこそ悲しけれわが身一つの秋にはあらねど

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今日の歌

大江千里(23番)『古今集』秋上・193

月みればちぢにものこそ悲しけれわが身一つの秋にはあらねど

 

現代語訳

月を見ると、あれこれきりもなく物事が悲しく思われる。私一人だけに訪れた秋ではないのだけれど。

 

意味

【月みれば】
「月を見ると」という意味。

「みれば」は確定条件。

 

【ちぢにものこそ悲しけれ】
「ちぢ(千々)に」は「さまざまに」だとか「際限なく」という意味で、下の句の「一つ」と対をなす言葉。

「もの」は「自分をとりまくさまざまな物事」ということ。

「悲しけれ」は係助詞「こそ」を結ぶ形容詞の已然形。

 

【わが身一つの】
「私一人だけの」という意味で、本来なら「一人の」だが、上の句の「千々に」と照応させるために、「ひとつ」になっている。

 

【秋にはあらねど】
秋ではないけれども、という意味。

上の句と下の句で倒置法が使われている。

「ね」は打消の助動詞「ず」の已然形で、「ど」は逆接の接続助詞。

 

 

これは、秋に変わりつつある季節と共に憂鬱になってしまう心を、「ちぢ」と「一つ」で対応させた詩である。

秋は気温も低くなり、日の出の時間も短くなってくる。そんなことから、昔の人は「悲しい季節」として「秋」を詠むことが多かった。