世の中は常にもがもな渚漕ぐ海人の小舟の綱手かなしも
今日の歌
鎌倉右大臣(93番)『新勅撰集』羈旅・525
世の中は常にもがもな渚漕ぐ海人の小舟の綱手かなしも
現代語訳
世の中の様子が、こんな風にいつまでも変わらずあってほしいものだ。波打ち際を漕いでゆく漁師の小舟が、舳先(へさき)にくくった綱で陸から引かれている、ごく普通の情景が切なくいとしい。
【世の中は】
「世の中」は、「今自分が生きているこの世界」という意味
【常にもがもな】
「常に」は形容動詞「常なり」の連用形で「永遠に変わらない」という意味。
「もがも」は難しいことが叶ってほしいという、願望の終助詞。
「な」は詠嘆の終助詞。
全体で「永遠に変わらないでいてほしいものだ」という意味。
【渚(なぎさ)漕ぐ】
「渚(なぎさ)」は「波打ち際」のこと。
【海人(あま)の小舟(をぶね)の 綱手(つなで)】
「海人(あま)」は「漁師さん」
「綱手(つなで)」は舟の先に立てた棒に結びつける麻の綱のこと。
【かなしも】
心を揺さぶるような切なさを表す形容詞「かなし」の終止形に詠嘆の終助詞「も」がついている。
「心が動かされるなあ」というような意味。
平和を願う様子を身近な風景から見出すことの美しさ。
現代でも、犬を見て平和が続けばいいなぁ。子供を見て平和が続けばいいなぁと思うことがあると思う。
昔の人もまた、そう思っていたのである。