春すぎて夏来(き)にけらし白妙(しろたへ)の衣(ころも)ほすてふ天(あま)の香具山(かぐやま)
今日の歌
春すぎて夏来(き)にけらし白妙(しろたへ)の衣(ころも)ほすてふ天(あま)の香具山(かぐやま)
現代語訳
いつの間にか、春が過ぎて夏がやってきたようだ。
夏になると真っ白な衣を干すと言う、あの天の香具山に(あのように衣がひるがえっているのだから)。
解説
【夏来にけらし】
「けらし」これは「けるらし」がと同じ意味。「らし」は推測の助動詞で、らしいと訳す。
【白妙の】
真っ白な布のこと。布への枕詞
【衣をすてふ】
衣を干すと言う意味、「てふ」は「という」のつづまる言い方
【天の香具山】
「香具山」とは、奈良県にある低い山のこと。
大和三山の一つで、天から降りてきたと言い伝えられている。したがって「天」がつく。
香具山とは100m未満の低い山であり、山腹に白い布が干されているのがすぐにわかる。
天から降ってきたとされる香具山に、白い布。何か神秘的なものでも感じていたのだろうか。山の深緑、白妙の布の白さ。色の対比がとても美しい歌である。
夏というのは気温も上がり、憂鬱に感じてしまう季節でもある。しかし、植物は生い茂り、日照時間が長くなる。季節の美しいさを意識するだけで、1日は充実したものへと変わるのではなかろうか。