小粋なジジイのお葬式

 

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いつもと変わらない毎日。

今日もマックにお世話になった。

「おはようございます。お客様ご注文いかがなさいますか?」

店員の爽やかな声は、僕の指先にまで響き渡る。

「アイスコーヒー1つ」

RECした毎日のスタートだ。ーーー

 

 

 

 

20代前後の僕達の会話には「重さ」が足りない。

齢、20年生きたところで、面白い話ができるわけがない。

シャトルランやだなー」

「面白い本ある?」

聞いても聞かなくてもいい質問。誰に向けたわけでもない会話。

いくら学があっても、言葉に重みは生まれない。

数多くの経験をしても、会話の幅が増えるだけで、質が深まるのではない。

「若者」はそう言った生き物なのだ。ーーー

 

 

 

隣を見ると、70代近くの「老人」が2人仲良く話している。

徒然なるままに、ひぐらし、とでも言えようか。

彼らもまた平凡な1日を繰り返すのだろう。

しかし、歳を重ねても朝からマックで会話できる、そんな関係は羨ましくもある。ーーー

 

 

 

 

2人の「老人」は、身なりも綺麗で、2人とも「ハット」を被っている。

襟付きのシャツ、腰にはベルト、革靴。

それが彼等の正装だ。

そしてコーヒーを片手に、ルーティンを重ねるのだろう。

彼らは齢70歳、言葉の重みの全盛期だ。

僕は貴重な話が聞けると思い左耳を傾けてみる。

「オンライン葬式って知ってる?」

奥側の腰がすっと伸びた老人が呟く。

…オンライン葬式???

今、葬式って言った?

にわかに信じがたい内容に、頭が追いつかない。

今度は、両耳を傾け、老人の話に耳を澄ます。

「オンライン葬式??そんなのやだね!死ぬ時くらい見届けてもらいたいよ!」

手前側の色のついた眼鏡の老人が呟く。

…やっぱりそうだ。ーーー

 

 

 

 

 

今日も店員の明るい声とコーヒーの香ばしい匂い。

店内には日差しが差し込み、朱色に淡く輝く。

僕達に挨拶でもしてくれているようだ。

そんな中、いつもと違う雰囲気を誰もが感じとっていたに違いない。

正装に身を包んだ小粋な老人たちは、各々の死に方について語っている。

…重い。重すぎる

彼等の席は、鉄紺に淀んでいる。

陽光の挨拶を跳ね返す「葬式」と言う会話。

僕は、歳を重ねる「重み」を改めて感じたのだ。ーーー